017_取引先との契約書の内容を確認するために
日本的な口約束や暗黙の了解が通じない中国では、契約書は日本以上に重要な役割を果たします。中国で交わす契約書は、中国語である場合が多いため、契約書に関わる基本的な用語を覚えて、契約書をスムーズに読めるようにしておきましょう。
中国語の契約書「合同书(hétong shū)」には、難しい文法は出てこないので、文章の意味を理解すること自体はそれほど難しくありません。ただし、訳者は法律の専門家ではないため、誤訳もあるかもしれません。基本的な用語を押さえた上で、弁護士「律师(lǜshī)」等の専門家に相談して、できるだけ漏れのない契約書を目指しましょう。
甲、乙 | ⇒ | 甲方、乙方(jiǎfāng、yǐfāng) | 不可抗力 | ⇒ | 不可抗力(bùkěkànglì) |
相手方 | ⇒ | 对方(duìfāng) | 契約書の言語 | ⇒ | 合同语言(hétong yǔyán) |
業務内容 | ⇒ | 业务内容(yèwù nèiróng) | 捺印 | ⇒ | 盖章(gài zhāng) |
契約期間 | ⇒ | 合同期间(hétong qījiān) | 法定代表者 | ⇒ | 法定代表人(fǎdìng dàibiǎo rén) |
秘密保持 | ⇒ | 保密(bǎomì) | 署名 | ⇒ | 签字(qiān zì) |
義務と権利 | ⇒ | 义务和权利(yìwù hé quánlì) | 発効 | ⇒ | 生效(shēng xiào) |
違約責任 | ⇒ | 违约责任(wéiyuē zérèn) |
契約書の言語は基本的には自由に選択できますが、中国の裁判所で審議するのに日本語の契約書では現実的ではないため、一般的には、正本として中国語版を作成し、日本語版はその訳文とします。
契約書作成時に注意したいのは、トラブル解決の際の管轄「管辖(guǎnxiá)」・準拠法「准据法(zhǔnjùfǎ)」や解決方法の記載についてです。
管轄や準拠法は、一方の所在地が日本にあれば、特別な場合を除いて、中国か日本を自由に選ぶことができますが、中国にあるものを日本の法律で判断するのは現実的ではないため、一般的には、中国において中国の法律を準拠法とする旨を記載します。
解決方法としては、訴訟「诉讼(sùsòng)」か仲裁「仲裁(zhòngcái)」を選ぶことができます。訴訟は裁判所「法院(fǎyuàn)」で、仲裁は仲裁機関で審議しますが、それぞれメリット・デメリットがあります。
訴訟…二審制なので控訴が可能である一方、日本で裁判した場合の判決は中国では執行できません。
仲裁…日本で仲裁した場合の仲裁判断を中国で執行することが可能である一方、一審制なので不利な仲裁判断が出ても不服申立てができません。
解決方法を定めないこともできますが、仲裁を選択する場合はその旨を明記しておかないと、仲裁制度を利用できないこともありますので、注意が必要です。
売買契約では、手付金や前払金という言葉が使われますが、中国語ではそれぞれ「定金(dìngjīn)」、「订金(dìngjīn」と言い、発音が全く同じであるため、非常に紛らわしく、契約書中で明確にしておかなかったためにトラブルへと発展するケースも多くあります。
定金(dìngjīn)…手付金。法律で明確に定義されています。買主からの契約解除と解されるので、返還の義務はありません。
订金(dìngjīn)…前払金。法律に明確な規定がありません。契約成立前の支払いと解されることが多く、買主が購入の意思を撤回した場合でも、返還すべきと判断されることがあります。
契約書の翻訳者は日中両国の法律を熟知しているとは限りませんので、時には上記の様な似た言葉があると、あいまいな翻訳もしくは誤訳となる可能性があります。契約内容の要点に関わる用語については、翻訳者も交えて事前に双方で協議を行うか、現地の弁護士に相談する等して、意味をはっきりさせ、契約書で明確に定義しておく必要があります。
中国では、契約書を結んでいても、取引先から約束した通りに物やお金が用意されない場合が多々あります。この時、義務の履行を要求しても、契約の記載事項に不備があったり、中国の法律に対して不理解だったりすると、相手方に有利な結果となるケースもありますので、泣き寝入りとならないよう、契約書は社内でよく検討して、漏れや誤解がないようにしましょう。