労働契約法の改正の行方
昨年3月に閉会した全国人民代表大会ならびに中国人民政治協商会議全国委員会で、労働契約法の改正についての議論が焦点のひとつとなりました。議会構成員の中からも、現行の労働契約法は労働者保護に偏り過ぎており、企業の利益保護の観点が不足しているという批判の声が上がっております。そもそも労働者保護に偏りすぎていることは、現行法が施行されたときからその内容を吟味していれば十分に理解できていたことではありますので、今更ながらという感は拭えません。さらにこの意見を受け楼継偉財政相は、将来的に労働契約法の改正を検討する見解を示唆しております。
この労働契約法の労働者保護への偏向性、例えば解雇法理の硬直性や経済補償という金銭的負担が、現政権が進める「新常態」において産業の生産性回復の足を大きく引っ張っているいわゆるゾンビ企業の改革やリストラの妨げになっていることは言うの及びません。さらに昨今、中国経済の減速が鮮明となる中、特に生産型企業の稼働状況の悪化に伴う人員整理も思うように進まない現状に直面しています。今後、企業側がいかにスムーズに人員整理を実現できるかが、中国の安定した成長を実現する構造改革の成否を占う重要な要素の一つとなってくるものとみられますが、中国政府はこうした問題も視野に入れ、いよいよ労働契約法の改正を図るものとみられています。改正の焦点になろうと思われるのは解雇条件の緩和と経済補償の支払に関する2点かと思います。ただ労働契約法自体を改正するには議会の優先度としてはさほど高くはないため、運用面で緩和していく方法としての実施細則の解釈変更に留まるものと考えられております。いずれにせよ、2008年から企業のマネジメントを悩ませ続けてきた本法が、少しずつ振り戻しを図られるときを迎えているようです。
今年もまもなく全人代の開幕を向えようとしています。政権としては、この労働契約法以外にも議論を進め、方針・見解を示す課題が山積みのため、労働契約法の改正についてどれほどの討議時間が割けるかは確かではありませんが、昨年の見解に引き続き、労働契約法の改正についてさらに一歩踏み込んだパブリックコメントが示されるものと思われます。