管理職と専門職、2つのキャリアパス
日系企業の多くはまだ日本本社の人事制度をそのまま中国で使っているか、あるいは中国法人の状況に合せて若干ローカライズしているケースもありますが、基本的にその大半は日本の年功型の制度である職能資格制度になっています。職能資格制度のひとつの特徴として「等級(例えば1級~10級のような)」があり、それに紐づいて「資格(主事とか主査のような)」があるということです。これが双方でリンクされているため、資格が上がれば等級も上がるしくみになっており、この部分が年功的、あるいは勤続年数で賃金が上昇する要因になっています。等級がどんどん上昇しますから、社内においては役職者が膨れ上がり、肩書のインフレを起こす原因ともなります。もうひとつの特徴として、等級や資格が上がっていくことで、いずれは役職者、つまりマネジメントを担っていくことを会社が社員に期待するゴールとなっています。役職者は係長から課長に昇進し、その中から部長になっていく、つまり一般職から管理職へと昇進していくことが職能資格制度のしくみの中には非常に多くなっています。
しかし、社員が必ずしも管理職になりたいと思っているわけではなく、また本人の素質からみても管理職に向いている社員ばかりではありません。日本では、管理職になった途端に時間外勤務の手当がなくなりますので、へたすれば賃金総額は一般職よりも下がってしまうケースもあります。それでも管理職になったという動機づけが社員を動かしたりするわけですが、中国のスタッフに対してこの動機づけはなかなか通用しません。賃金が下がってしまうのなら、面倒くさい管理職になどなりたくないと思っている社員も少なからずいるようです。一方で、日本の職能資格制度を使っている限り管理職にはならないということは、その先のコースが用意されていないため、管理職の手前で昇格、昇給ともストップしてしまうことになります。これもまた、中国人スタッフの動機づけにはうまく働かないので、そうなると将来管理職の要件を満たしている社員の流出を招いてしまうことにもなりかねません。
そこで用意しておきたいのが、管理職・専門職の2つのコースを選択できる人事制度です。そのためには等級と資格がそれぞれ関連づいているというところから取り払う必要があります。企業の中には新卒入社の社員からコースが選択できるようにしているところもありますけれど、本人の適性などは数十年勤務してみなければわかりません。しかも新卒で採用された当初の運・不運が本人のキャリアパスに影響してしまうこともあります。従って、一般職の間は、会社が社員を育てるという姿勢に基づいて、キャリアや賃金に大きな差をつけるべきではありません。
コースを選択させる一番よいタイミングは、一般職を卒業するときです。そのときに本人の希望、会社から評価した適性に基づいて管理職のコースに行かせるか、あるいは専門職のコースなのかを決めます。そのためには前述のように、等級と資格とが紐づいていてはこのコース選択が運用できなくなります。例えば10等級のうち、管理職は7等級が課長であるとすれば、コースの選択型制度であれば課長ではない7等級もあってよいのです。これであれば昇格によって等級が上がり、それとともに賃金も上がっていく、しかし資格や役職は上がらないという制度となり、会社にとっては人件費の抑制になり、社員にとっては自分の能力が活かせる場ができるということになります。一方で管理職は部下の指導や成果による事業方針の達成など苦労が多い仕事であることは間違いありません。その管理職と専門職とを同じ等級にし、なおかつ賃金も一緒であればこれもまた不公平感が表れ、管理職になりたいと思わせる動機づけは働きません。そのために管理職のコースを選択した社員には、それまでの時間外勤務手当を遥かに凌ぐ管理職手当をつけてあげればよいのです。このように、社員のキャリアパスを管理職と専門職とに分ける、管理職には管理職手当をたっぷりとつけてあげる、というような人事制度にしておけば、社員にとっても目指す先が見えやすくなると思うのです。