百年企業と福利厚生
先日上海市主催の「匠の精神とは—中日百年企業研究会」に参加してきました。
- 日本にはどうして百年以上続く長寿企業が多いのか?
- どうしたら中国企業に「匠の精神」が根付くのか?
こうしたテーマに関し、日中の専門家が熱い議論を交わしたイベントでした。
今回は、中国の福利厚生のあるべき姿について、長寿企業と関連させながら
コラムを書かせて頂こうと思います。
このセミナーでも紹介されていましたが、百年以上続く企業の社数は日本が世界一で
2.5万社以上だそうです。二位はアメリカで1.1万社、三位はドイツとのこと。
中国での百年企業の社数はセミナーでは紹介されていませんでしたが、
ネットで調べたところ、老字号(70年以上の企業)は1000社程度という
情報があった程度でした。
いずれにせよ上記三ヶ国と比べて、中国の長寿企業はかなり少ないのが実態
のようです。
そして、メインゲストである日本経済大学の後藤教授が当イベントでとても印象に
残る指摘をしていました。
「日本に百年企業が多い理由はなにか?
近代的な経営を行っていたこと、
そして常に緩やかな経済成長という外部環境があったことも理由のひとつだ。
ただ、一番大事なのは経営者が事業を継続させようという強い意志があったことだ。」
「長期的な視点に立って経営を行う」
といった点が長寿企業に共通する特徴とのこと。
日本人である私は、すんなりと納得できる指摘でした。
以下、関連URLを張っておきますので興味ある方はご覧ください。
–
(中国語)
呼唤工匠精神|中日百年企业研讨会在沪召开(新民网)
http://newsxmwb.xinmin.cn/world/2016/05/24/30069137.html
中日百年企业研讨会呼唤“工匠精神”(东方网)
http://obridge.eastday.com/renda/hwzq/obridge/jszd/xgwz/u1ai6099323.html
(日本語)
対談 長寿企業大国日本、そこに息づく中国文化(シャンハイリーダーズ)
http://www.shanghai-leaders.com/leader/publish-media-and-culture/201604taidan/
100年企業を目指すには。その秘訣を思想から探る(シャンハイリーダーズ)
http://www.shanghai-leaders.com/leader/publish-media-and-culture/201601goto/
ところで、福利厚生やインセンティブを通じて日中両方の企業を見てきた私にとっても
「長期的な視点での経営」は大変関心のあるテーマです。
当社の日本でのクライアントに対して「当社となぜ契約したのか」と聞くと、
おそらくほとんどの企業は
「社員の満足度を上げたいから。社員を大切にしたいから。」
という回答が返ってくるはずです。
そしてそうした考えの根底には
「社員にはなるべく長く働いて欲しい。社員と会社は常につながっていたい。」
という考え方があると思います。
一方、中国の福利厚生はどうか?
少し短期志向、現金志向になり過ぎていると私は思います。
例えば季節の儀礼。
昔は、粽や月餅など現物を季節ごとに社員に手渡ししていたと思います。
こうした行事を通じて、社員は温かみのある会社(中国語で「人性化」)だなあと
当時は感じていたはずです。
しかし、時代は変わり、最近はスーパーやネットの買い物カードを渡している会社
が多くなりました。ただ、ギフトカードは現金に感覚が近いため、ほとんどありがたみの
気持ちが社員に伝わらなくなっているのが現実です。
また、社員旅行も全員で一緒に行く方法をやめ、事後精算方式
(発票を持ってくれば後で精算可能な方法)に変えてしまった会社もあります。
これでは一体感を醸成する本来の目的が失われてしまっています。
そして、忘年会の景品では現金(大金)をそのまま渡している会社がニュース
になりました。その場は盛り上がるでしょうが、おそらく時間が経てば感謝の気持ち
はなくなるはずです。
もちろんこうしたやり方は、日本の百年企業は採用しないでしょう。
中国でも多くの企業が「社員を大切にしたい」と思っているはずです。
但し、残念ながら結果としてそれが伝わりづらくなっているのかもしれません。
現金給付(給与、賞与)ではこうした会社の温かい気持ちは伝わりません。
福利厚生制度をうまく活用して「会社が社員を大切にしている気持ち」を
積極的に社員に伝える工夫を続けるべきです。
福利厚生も現金給付に近いやり方を採用してしまうと、
企業文化も短期的、刹那的なものに変わってしまう恐れがあると思います。
今の福利厚生は本当に社員の心に響いているか?
そろそろ現状の福利厚生や現物給付の見直しをはじめてみてはいかがでしょうか?
そうした取り組みは、百年企業への第一歩にきっとつながるはずです