新常態と第13次5カ年計画の方向性
2014年の習近平総書記による河南省視察の際、「新常態」という言葉を用いてからこの新常態(ニューノーマル)は頻繁にメディアに登場し、経済成長が減速する中、中国の次の経済政策を象徴するキーワードとして認知されるようになりました。経済政策を担う中央経済工作会議では、「中国経済に9つの趨勢的な変化が生じている」と指摘していますが、この9つの趨勢的な変化とは、①消費、②投資、③輸出、④生産能力・産業組織、⑤生産要素の優位性、⑥市場競争、⑦資源・環境の制約、⑧経済リスク、⑨資源配分・マクロ・コントロールといった一国のマクロ経済、財政政策で取り上げられるほとんどすべての要素が含まれています。
民間消費は中国の統計上、GDPの4割弱しか占めておらず、アメリカの7割、日本の6割と比べてもまだまだ消費が経済を牽引する力は弱く、盤石な経済構造を築いていく上では民間消費を伸ばしていくことは中国の経済政策にとって長年の大きな課題として取り上げられており、高い貯蓄性向から消費を促していく政策や、新たな産業の育成が喫緊に取り組むべき課題であることは間違いありません。また過剰な設備投資による超過供給は大量の民間在庫を生み、需給調整の結果、多くの労働者の失業を招いてしまうということになり、従来の重厚長大型産業から技術革新、研究開発を経たニュービジネスの育成が急務になっています。輸出は財の価格に頼るところが大きく、人件費の高騰、中国よりも安価で生産できる新興国の成長により中国製品の海外における優位性というものは次第に失われつつあります。輸入も内需に大きく左右されてしまいますので、国内景気が失速するにつれ、輸入品の需要も低下してきます。貿易大国と言われた中国も、従来のように発展の多くを輸出に頼るという構造からは乖離してきており、徐々に国際競争力は低下していくことはやむを得ない事情です。
このようにみてみますと、中央経済工作会議が掲げるこの「9つの変化」はまさに中国経済が現在抱える大きな課題を表しており、また中国が安定した次の発展ステージを登っていくためには必ずや乗り越えていかなければならない壁とも言えます。更に中央経済工作会議は、この「9つの変化」を「4つの転換」によって解決していくとしています。「4つの転換」とは、①経済発展、②経済発展方式、③経済構造、④経済の発展動力の転換ということであり、中国の経済発展は従来の高速成長から中高速成長へ転換させ、規模やスピードを追求する成長から、質や効率を重視する成長への転換を図り、超過供給から需給バランスをコントロールした経済、資源を浪費するだけでなく効率や環境までも意識した経済という新しい発展形式への転換となります。
これら「9つの変化」を「4つの転換」により解決させていくことこそ、習近平総書記や中央経済工作会議が掲げる「新常態」です。2015年のGDP成長率は6.9%と政府目標の7%に届かなかったという発表がありました。中国経済は失速しているという報道も至るところで目にします。私としましては、6.9%というのは想定内であり、決して悲観する数字でもなく、世界経済に与える影響は軽微なものとなるでしょう。それよりも世界の投資家は、今後中国がどのように構造改革を進めていくのか、そちらの方を注目しており、それによって資金の流動性や投資の大きさを決定していくものと思われます。経済や景気は変動を繰り返していくもので、それをどのように安定的に変動させていくかということの方が大きな課題なのです。減速したまま奈落の底に落ちていく経済であれば非常に問題ではありますが、中国が自分たちでも認識している経済構造自体が抱える課題を、今までとは異なる政策で解決させてゆき、構造改革を行っていく道筋を立てていければ、新たな中国として世界的なプレゼンスは高めていけるでしょう。2016年、第13次5カ年計画が始まります。この5年間は今までの中国とはまったく異なる政策を進めていくものと思います。もしかすると改革開放後の大きな転換期を向かえるかも知れません。今年の中国の経済政策、金融政策はますます目が離せなくなりそうです。