中国での転職・就職・求人情報サイト

上海・広州・深圳での転職ならパソナ中国へ



2016年の賃金上昇に関する予測

2015/12/08 執筆者 :

2016年を迎え、今年の中国の景気動向にも企業の皆さんにとっては注目を集めるところではあると思いますが、さらに現実的に直面する課題として、今年の従業員の昇給をどの程度の水準で実施するかということは皆様の直近の悩みどころではあるかと思いますし、今年、他社がどのような比率で昇給を行うかについても関心の深いところではないでしょうか。これについては2015年後半から2016年にかけての中国経済の実態や、今後中国政府がどのような方針によって経済政策を行っていくのかということによって、ある程度予測することができます。今回は、大胆にも来年の最低賃金の引き上げ、昇給水準の予測をしてみたいと思います。

経済・景気の状況につきましては昨年から様々なところで分析・発表されていますように、国内総生産(GDP)の成長が鈍化してきており、購買担当者景気指数(PMI)

も2ヶ月連続で回復しているとはいえ、11月の指数は48.6と、9ヶ月連続で好不況の節目である50を割り、輸送量や電力消費量も徐々に低減しつつあります。中国政府も公言しているように、中国は今後、大胆な産業構造の転換を図りながら、持続可能な経済成長を進めていくものと思われ、今までの成長モデルであった過剰生産、超過供給、高い輸出依存度、市場価格から大きく逸脱した固定資本形成(住宅投資)などの牽引要素から、中国は内需比率(民間消費比率)を高めながら新興国・途上国の経済成長パターンから先進国の経済への脱皮を図っていくものと思われます。この経済成長の転換によって一時的には景気は減速し、国内総生産の伸長も今までより鈍化せざるを得ないのですが、そこをどう我慢し、国民所得の低下によって引き起こされる失業、物価の下落に対して措置を講じていくのかということの方が、むしろ中国にとっては重要な課題だと思います。

このように考えていきますと、中国政府が最も懸念しなければならないのは国内企業の連鎖倒産であり、それにより発生する失業です。従来のような継続した高い昇給率では企業の人件費は高騰をし続け、徐々に企業経営を破たんに追い込んでしまいまいますが、その一方で、従業員にとっては賃上げにより可処分所得が増えますから、消費の拡大にはよい刺激を与えます。企業の賃上げと従業員の消費という二律背反について政府がどのようにバランスをとり、どこに落としどころを持っていくかは非常に難しい課題ではありますが、ただもうひとつ明らかなのは、賃上げによって所得は増えるものの、決してそれが思ったように消費に強く影響を与えていないということです。中国の貯蓄率は公式には発表されておりませんが、多くのデータから推測すると、家計における貯蓄率は可処分所得の25%程度あるのではないかと思います。ASEANの中でも比較的高いマレーシアやシンガポールでも16%程度ですから、簡単に言えば、「賃金が上がるにつれ所得も上がっているが、それを使わずに貯め込んでいる」という状態なのです。国民の貯蓄性向を下げ、消費にお金を回すということは社会全体の仕組み、例えば社会保障制度の整備や教育費用の削減、需要に合った商品・サービスの開発など一朝一夕ではできない大変時間を要する改革になりますので、このようなことを考えていきますと、中国政府が当面選択すると思われるのは、賃上げ(企業負担の増加)と消費というふたつのパラドックスのうち、2016年については企業の業績保障を重点的に行っていくようになると思われます。これは2008年に起こった世界金融危機の際、各市・省が2009年の賃上げ(最低賃金の上昇)を軒並み凍結したように、2016年についても凍結、或いは上昇率の抑制が採られるものと考えられ、これにつられ、企業の昇給率も2016年度は5~7%の間という、過去にはあまり例をみなかった低い水準に落ち着くものと思います。                  (了)