昇格審査は難しい。でも慎重かつ厳格に
上海の某飲料メーカーから委託を受け、その企業の幹部候補生の昇格審査を、もう4年くらい毎年担当しています。その企業との取引のきっかけは、人事制度を2年かけて改定し、本社の経営理念を中国の現地法人向けにアレンジして従業員に根づかせていくというプロジェクトを担当していたのですが、プロジェクトが完了した後から毎年12月の昇給昇格に向け、9月頃になりますと昇格審査のご依頼を頂くようになりました。昇格審査は「論文試験」と「面接試験」の2つで構成しております。「論文試験」ではマネージャーとして相応しい判断ができるかどうか、或いは組織全体の利益を考える思考能力を備えているかどうかという観点から、毎回、ケーススタディとなる事象を考え、概ね4ページ程度で解決策を論じてもらうという内容です。毎年同じ内容で課題を与えるわけにはいかないので、毎回毎回、ケースを考えるのですが、これがなかなか大変な作業です。一方の「面接試験」ではその企業の幹部(日本人・中国人)の方も同席されることもありますし、私一人で行うケースもあるのですが、確かにお客様からすれば社内の関係者だけで昇格を決めるとなれば、普段から接しているだけに人情も湧いてきますし、なかなか客観的に評価していくのは難しいだろうなとも思いますし、それよりもむしろ、第三者の目から見て、候補者が昇格するに相応しい素質、能力を備えているかどうかも知りたいところではありますので、ご依頼を頂く背景も十分に理解できるところではあります。そこまでしても従業員の昇格について真剣に、きちんと考えていく姿勢を持っている企業ということかと思います。
今年もまた、その企業から昇格審査のご依頼を頂きました。面談では毎回数名の昇格候補者がいるのですが、その日も指定された時間にその会社へ足を運んで、候補者の面接を順番にこなしていくうちに、はて?どこかで見覚えのある顔が。うーん、誰だったかなあ、と考えている傍で、私のしぐさを察知して頂いたのか、隣に座っていた日本人の副総経理が、「昨年、昇格審査で落とした社員です」という耳打ちが。あ、そうだ。去年もこの面接に来ていた彼だっけ、と、次第に思い出して来ました。向こうも私のことを覚えていたらしく、お久しぶりです、とでも言うようなにこやかな笑顔を返してきています。
昇格面接は、去年は去年、今年は今年ですので、心機一転、今、目の前の面接をこなしていくわけなのですが、こちらからいくつかの質問をぶつけているうちに、完全に去年のことを思い出して来ました。“そうだ。去年は管理職としての迫力に欠けていたから落としたのだっけ”と、そんなことを考えている一方で、今年は頑張ってくれよ、という想いもあったりします。ただ、面接を進めているうちに、やはり去年とあまり変わっていない。今、目の前に座っている彼だけを見ているのですが、どうしても昇格させるには物足りないのです。結果としては今年も昇格面接では不合格。さすがに気になったので、2年続けてダメだったら本人、会社を辞めてしまうかも知れませんと、その会社の幹部の方にはお話することにしました。その後、その会社が昇格を決定されたかどうかはわかりませんが、これが昇格の難しいところです。昇格を前提にして形式だけ審査を行えば、会社の制度そのものが骨抜きになるし、何度もダメだった場合、どのようにフォローをするか、そこまで考えなければ昇格制度は運用できないのでしょう。
ただ、ひとつだけ言えるのは、会社、組織の利益、従業員全体のモチベーションを高揚させていくためには、やはり厳格な昇格のルール、手続というものは絶対的に必要だと思います。人情や幹部昇格の順番を基準にし、本来は幹部としての役割を担わせるべきではない従業員を組織のヘッドに据えてしまうほど、組織全体にとって不幸なことはありません。
(了)