自分の目でみて、確かめて、考える
今年度から私の地元にあります神戸学院大学という大学で非常勤として教鞭をとっています。2回生の学生の後期授業ですが、それでも9月から2月までのほぼ毎週月曜日には授業がありますから、それに合わせて日本と中国を行き来しなければなりません。私が受け持っているのはグローバルコミュニケーション学部という昨年度から新設された学部で、いわゆる外国語学科なのですが、その学部の中国語学科の学生に中国の政治経済を後期15コマ教えることになっています。昨年から募集した学部ですので中国語学科は16名、他に英語学科と留学生を対象とした日本語学科があります。
中国語を専攻している学生なのでさぞかし中国のことは詳しい、少なくとも中国への関心が高いのかと思っていましたが、辛亥革命をテーマにした授業では孫文が何をした人かすら知らない学生も多く、孫文と辛亥革命は一般常識の範疇ではあっても、それすら最近の学生はあまり勉強していないのかなあとも思いつつ、学生に対してどのレベルに照準を合わせて講義を進めればよいか苦慮することになります。こちらも3年前から、同じく後期の金曜日ですが、京都外国語大学というところで中国経済を教えてきていますが、神戸学院大学の学生の反応をみて、本当は京都外大の学生もあまり理解できていなかったんじゃないだろうかと顧みることができたのは収穫ではありました。
授業というよりはゼミに近い形で私と学生との間でいろいろな話のキャッチボールをしながら、ときには授業から脱線しながら授業を進めていますけれど、これも学生が中国に興味を持ってもらえればよいかなと思いながらやっています。ただ学生には口酸っぱく言っていることは、中国語学科の学生ですからもちろん中国語を習得するのは大きな目的ではありながら、やはり中国の歴史や文化、政治のしくみや経済についても幅広く知識を得て欲しいと思っています。特に中国は日本からみてもすぐ近くにある隣国ですし、古代から関わりの深い国ではありますから、様々なジャンルにおいて他の国には見られない、日本とは特別な関係を維持しています。中国語だけが達者であってもそれではただの通訳にしかなりませんから、もっと広く、深い視野で中国を知ってもらいたいと思います。また、これはどのような学問でも同様に言えることですが、自分で基礎からきちんと勉強して、自分なりに知識をまとめ、判断し、物事の事象を自分の考えとして解釈してもらいたいと思います。特に最近は日本の書店に行けば中国に関する書籍は平積みで置いてあるほどたくさん出版されていますが、その大半は中国に対して特別な、穿った見方から書かれている本ばかりで、いや、書店だけでなくアマゾンのようなネット書店で探しても、公平で客観的な観点から書かれている本を探すのが大変なくらいです。これはこれでひとつの考え方から書かれているかも知れませんが、なんの知識もないうちからひとつの偏った思想の本を読むことほど危険なことはありません。学生にはまず自分でフラットな視点から知識を定着させなさい、いろいろな知識を広く、深く収めていったあとにこれらの本を読むのは構わないけれど、知識もないうちからこういう類の書籍はお勧めしない、といつも言っています。
どうしても昨今、日本も中国もサブカルチャーっぽいものが流行り、世の中には快楽主義的な思想が蔓延しがちではありますが、そのような風潮の怖ろしさは、多数の意見が自分の意見になってしまいがちなことです。日中関係についても然り、人の意見に流されず、まず自分で確かめ、考えてみるということが必要なのかもしれません。
(了)