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2016 給与情報・福利厚生分析レポート_Vol.5
職種別給与 管理部門編

2016/05/25 執筆者 :

前回は、企業がどのような教育研修を実施しているか、またローカル社員を対象とした研修の重要性について紹介した。今回は、主に管理部門の職種における給与を見ていきたい。

 

2015年の日系企業の昇給率は7.88%を記録し、鈍化が続いている中国のGDP(6.90%、2015)同様に前年度を下回った。この傾向が続けば、2016年には恐らく昇給率がGDPを下回るだろう。また、2015年度の中国の大学卒業生の給与は、中国のポータルサイト捜狐網が発表した大学など高等教育機関を卒業した2015年度新卒者の平均初任給は月額4,187元(約74200円)だった。パソナが昨年、日系企業に紹介した新卒者の給与の平均が4,641元だったが、前述の国営企業と10%程度の開きしかない。約5年前にはこの差が20%程度あったが、昨今日系企業と国営企業の給与の差が縮小していることが伺える。

 

GDP/ CPI/ 日系昇給率

GDP、 CPI、 日系昇給率

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GDPCPI:中国国家統計局公式サイトより)

 

こうした状況のなか、日系企業が優秀な人材を採用し、活躍してもらうには給与をはじめ、福利厚生、評価制度、研修等複合的に人事制度を構築することが求められる。

 

管理部門(会計、人事、総務)の給与トレンド

では、職種別給与のトレンドを見ていきたい。管理部門においては、月給10,000元(約17万円)を越えるのがシニアスタッフレベル(5年以上の経験者)になる。例えば、大学卒業後、22歳で日系企業に入社した場合、20代後半に10,000元に到達することになる。しかし、新卒で採用した従業員が1社で5年~7年務め上げ、10,000元に到達する話はあまり耳にしたことがない。経済成長が緩やかになってきたといっても、まだ高い成長率を見せる中国においては、転職すると約1020%給与が上がることが多く見受けられる。異なる職種や業界を経験したい、給与がもっとほしい、上司と合わないなど様々な理由で転職をするが、大半の20代の中国人は転職しているのではないだろうか。転職によって給与が上昇する点をはじめ、日本よりコンパクトな組織体制であるため、社内教育に時間をかけることができない状況やジェネラリスト型の人材が少なく、ジョブローテーションをしづらい中国では、新卒を採用するより、即戦力の中途採用を活用する企業が多い。しかし、中途採用者を迎えることで、企業内の給与バランスを崩れ悩んでいる企業が多い。中途で採用した従業員が増えてくると、中途採用者と同業務を実行している自社スタッフと給与格差が発生し、自社スタッフから不満が出ることが最近多く見受けられる。会社に残したい従業員のリテンションを図るためにも、各方面の平均昇給率だけを参考にするのではなく、同業界の同職種を参考にしながら自社社員の給与設定の変更も必要だろう。その参考指標の一つとして、今回はパソナでリサーチした職種別給与の数字をご覧いただきたい。

 

以下のグラフは「会計」の給与調査の結果である。「新入社員/ジュニアスタッフ」は当職種2年未満をさす。「一般スタッフ」は2年以上5年未満、「シニアスタッフ」は5年以上、そして「課長/マネージャー」及び「部長/マネージャー以上」は各会社における役職のため当職種の経験が6年以上の方もいれば10年以上の経験を持つ方も含む。

 

▼職種別給与 会計編

中国日系企業_職種別給与_会計編

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まず、上から2番目の「部長/マネージャー以上:英語日本語ともにコミュニケーションレベル以上」が突出してみえるが、本回答者は数件のポジションのみのため傾向からは除外する。グラフ全体から読み取れる傾向は、語学による給与の差はさほどないと言える。強いて言うならば、英語も日本語も話せないのが各役職のなかで最も低い。また、英語か日本語、どちらのスキルの方が給与が高いということではなく、どちらかでコミュニケーションが取れればいいという企業のニーズも読み取れる。

 

ただし、「部長/マネージャー以上」になると、日本の財務担当者と直接やりとりを行い、より専門的でより正確さが求められるやり取りが発生するため、日本語力が評価される傾向がある。

 

次に、人事の給与を見ていきたい。会計と同様、10,000元の差は、シニアスタッフ(5年の勤務経験)がポイントとなる。課長職になると、15,000元前後が平均値である。人事部に駐在者を配置している企業はほとんどないが、より企業のコーポレート部門強化を図る上では、人事部門に投資や戦略を遂行することは重要である。駐在で赴任している方の多くは、営業職でのキャリアを築いてきた方なので、自身とは異なる領域の専門知識を持っている人材に投資していくことは重要である。

 

▼職種別給与 人事編

中国日系企業_職種別給与_人事編

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最後に総務の給与を見ると、人事とほぼ同じ給与レンジである。会計や人事と違い、部長クラスになると、手当ての割合が多くなっている。給与テーブルでは調整できない金額を手当てで補っていると考えられるが、報酬や評価、また昇給制度が正しく機能していない可能性もあるため企業によっては制度を見直す必要があると思われる。

 

▼職種別給与 総務編

中国日系企業_職種別給与_総務編

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給与の背景

日本と中国では会社での働き方や給与に対しての考えが異なると感じる。日本の場合、社員と企業間で一体感を生むための一つの施策として終身雇用制度を採用したことから、企業文化を社員にアピールすることで帰属意識を醸成している。また、従業員が辞めない文化がまだ残っているため企業は数十年先を見越し、入社年度の若いうちからジョブローテーションを実施し、ジェネラリスト人材を育成する。そして上司の役割としては、意思決定の際、上司の意見を通すというより関係者全員の意思を調整することが重要になってくる。そのため、中国のように上司が権限と責任を行使して仕事を進めて行くスタイルはあまりない。このようなマネジメントスタイルも影響して、役職が上がったとしても、給与は緩やかにしか上がらない。一方で中国は企業への帰属意識ではなく人的ネットワークに重きを置く傾向が強いため、企業ごとではなく、職種や役職に応じて給与を設定する傾向にあると感じる。13年の短期契約で個人はキャリアを築くため、スペシャリスト型の人材が育ちやすく、ジョブローテーションを行うことは中国でのキャリア形成において一般的には価値が下がる可能性が高い。よって、一つの職種で仕事を続けたい人材が多い。結果、職種ごとに能力及び知識が高い人材が役職のあるポジションに就いていく。責任と給与が比例するため、上の役職の社員に対して権限や責任が集中し、上司の発言力が高まる。この場合、事業や部署マネジメントが好調な時はいいが、万が一リーダーが誤った方向に部署や組織を導けば当然当事者の責任が問われる。日本とは上司が持つ権限と責任の重さが異なるため、中国では役職が上がると給与もかなり上がる。「中国はなぜ役職が上の社員はこんなに給与が高くなるのか」という疑問をよく耳にするが、これは日本以外では一般的といえるかもしれない。中国法人のビジネスや運営を組織化し、自立、自走させることをミッションに日本から駐在員が中国に派遣されるが、中国の役職が上にあがるにつれ、権限、責任そしてそれに応じる給与を付与することを理解し、実現することを薦める。多くの駐在員が中国法人での組織運営に苦労する理由の一つは、日本以外の国がどのように組織運営やキャリアを捉えているかを十分に理解していないからだと感じる。

 

駐在員が、中国の昇給率に基づいた採用計画を日本本社に対して出すと、驚きと共に却下されることが多い。駐在員はより中国の状況や文化を本社にも理解、納得してもらえるようコミュニケーションを図る努力が求められると同時に、本社も現地法人が置かれている背景や社会環境を理解し、両者が歩み寄る必要がある。給与については、優秀な人材に活躍してもらうためには、駐在員も本社もダイナミックに給与テーブルを変えることも必要ではないだろうか。日本と中国ではキャリアへの考え方が異なり、給与と能力の連動は日本以上に強いかと思う。

 

また優秀な人材を見極める物差しとして、職務経験やスキル、ヒューマンスキルや働く姿勢等はもちろんのこと、今後中国でも個人の基礎能力を測るテストやツールの必要性が高まるだろう。採用時に候補者の評価が俗人的になることを防ぎ、客観的な指標に基づいた評価が可能となり、給与を決める上でも重要なポイントとなる。

 

「中国は人件費が安い」と思っている人がまだ多いと感じる。給与の高低差は学歴、職種やキャリアによって当然ある。経営戦略に基づいた人事戦略を描く際、平均的な制度設計をするより、「公平な物差しを基にした差」がある制度設計が中国では合うのではないだろうか。給与制度や昇給率など人事関連の問題を日本と中国の2国間比較だけで決めていくのではなく、第3国との比較を考慮して、設計していくことも大切だろう。

(以上)

 

 


 

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